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Crypto Economicsの不都合な真実 - 行動経済学の知見から - (1/3)

今回はドイツの研究者Elad Verbinが最近Mediumに投稿したCrypto Economicsに関する記事を翻訳してきます。最近Crypto Economicsに関する取り組みが増えていますが、Bitcoinに比べてナイーブな前提に立っている場合が多いように感じます。この記事ではそのような現状に対して、行動経済学の視点から斬り込んでいます。

全文翻訳はかなり長くなってしまうので、3回構成に分けてポストします。

medium.com

要約 (イントロダクション/第1章)

Bitcoinの誕生と同時に生まれたブロックチェーンは、現在はインセンティブ設計を行うことで人々の行動を制御する仕組みとして注目されている。この仕組みは最近ではCrypto Economicsと呼ばれている。

しかし、ビットコインで導入されたCrypto Economicsが完全合理的な人間を仮定していなかったことに比べて、現在の多くのプロジェクトは人間が合理的に行動するという仮定に依存してしまっている。

行動経済学の知見をもとに、現在のCrypto Economicsが一般的に不十分であることを確認し、より心理的側面を重視したインセンティブ設計が必要であることを明らかにする。

全文翻訳

Introduction

2009年にサトシ・ナカモトがインセンティブを利用して、ビットコインを作り出した。その後時が経ち、2018年には数十億ドル規模のブロックチェーンプロジェクトが産まれている。これらのプロジェクトでは、インセンティブをビットコイン同様の仕組みでデザインしており、一般的に効率的市場仮説と集合知に基づいたデザインとなっている。しかし、人間が想定しているほど合理的でない場合にそのデザインは適切といえるだろうか?

Crypto Economicsは経済デザインの新しいパラダイムだ。Crypto Economicsによってはじめて実用的なデジタル貨幣が成立したが、最近では一種の「銀の弾丸」となりつつある。輝かしい未来を実現するために、あらゆる分野で「インセンティブ」を操作することがブームとなっている。

例えば、以下のような新しいサービスが立ち上がっている。

  • 計画と予測 (Gnosis、Auger)
  • ソーシャルメディア (Steemit)
  • 評価経済と自己組織化 (Colony、Boardroom、Democracy.Earth)
  • データ活用 (Ocean、Numerai)

しかし、単純なシステムを構築するために作られた仕組みを複雑なシステムに拡張するには、ルールに従って行動するように設計された原則を理解し、それを「人間」に適用する必要がある。

この時気をつけなければならないのは、人間は合理的に振舞うと仮定しがちだが、時に人間は経済的に最適でない決断をする傾向があるという点である。一般的に人間は、「おおむね正しい」決断をしがちだ。つまり、多くの状況では正しい決断だが、時に悲惨な結末に至る決断をしてしまう場合があるということだ (例えば、投票や複雑な金融市場で果たしてあなたは合理的に行動できているだろうか?)。

この記事では、行動要因と心理的側面がCrypto Economicsで十分に考慮されていないということを主張する。Crypto Economicsを長期的に有用な、そして成功するものにするためには、行動経済学者や社会学者などの専門家の参画が必須である。

1. Introduction: Bitcoin、行動経済そしてCrypto Economics

まずはBitcoinから話をスタートしよう。

インセンティブ設計のコンセプトはサトシ・ナカモトのBitcoin Whitepaperからはじまり、Andreas AntonopoulosのMastering Bitcoinによってまとめられた。ナカモトはインセンティブデザインを使うことで、前人未到の堅牢で安全、分散化されたデジタル通貨を発明した。

ナカモトのデザインには以下のような特徴がある。

  • マイナーにネットワークを維持するインセンティブを与え、プロトコルの通常の動作から逸脱した動きをしないようにコントロールした
  • マイナー、ユーザー、開発者といったすべてのステークホルダーのインセンティブを合理的に調整した
  • オープンソースという性質は、Bitcoinが攻撃を受けた時に別のチェーンに逃げる選択肢をステークホルダーに与えることで、攻撃者のインセンティブを削いだ
  • ビザンチン将軍問題に対してゲーム理論的な解を見つけた。つまり、正直に振舞うマイナーには報酬を与えるが、ルールに反するマイナーには報酬を与えず、電気代というコストを徴収するモデルだ

このようなゲーム理論に基づくナカモトのデザインは、驚くほどマイルドだ。Bitcoinはたった51%のマイニングパワーが協力するだけで、崩壊するリスクがある。

それでは、なぜこの仕組みはうまく動作したのか。決定的なポイントは、BitcoinのセキュリティモデルはHomo Economics (完全に経済合理性をもった行動をとる人間)の前提にたっていない点だ。むしろ、一部の人々が経済合理的でなかったり、あるいは悪意を持った組織的な攻撃を一部の人々が仕掛けたとしても、Bitcoinは安全である。SteemitやAugerなどの最近のプロジェクトに比べて、Bitcoinはかなり現実的な仕組みになっている。

2009年から、インセンティブ設計はかなり高度になってきている。現在では、より複雑なシステムにインセンティブモデルを適用するようなブロックチェーンプロジェクトが増加している。

  • Zcashなどの第一世代ブロックチェーンや、Ethereumなどの第2世代ブロックチェーンではBitcoin型のインセンティブ設計を受け継いでいる
  • Gnosis、Augerや他の予測市場は価格発見メカニズムを利用することで、将来予測を試みている。つまり、正確な未来予測をすることに対して報酬を用意することで、正しい未来を予測しようと試みる
  • Steemitは価値のある情報をシェアしたり、他人の投稿の品質に対して正しい評価をするインセンティブ設計となっている。他のReputation Systemでは、よい評判の参加者に「いいね」するようにインセンティブデザインされている(これは人間社会の一般的なReputation Systemと同様の仕組みである)
  • Numeraiはデータサイエンティストに、金融取引に利用できるよりよいアルゴリズムを考案するインセンティブを与えている
  • Futarchyはユーザーによりよい決断をするインセンティブを与えている
  • Oceanはよいデータセットを選択し、既存のデータセットにさらなる価値を与えるようにインセンティブが与えられている(NumeraiとGnosisがセットになったようなものと考えると分かりやすい)
  • Polkadotはネットワーク(ValidatorとCollator)で正直に振舞うインセンティブをステークホルダーに与え、悪意を持った参加者 (Fisherman)を見つけ出し、誰が本当に信用に値する人 (Nominator)かを決定できるデザインとなっている

全体的に、インセンティブデザインは多くのエキサイティングなサービスを作り出しており、ブロックチェーンシステムの主要な特徴の一つとみなされている (より正確には、高可用性を維持した状態で、非常に多種多様なインセンティブ設計を実装する手段である)。このことは最も著名なブロックチェーン開発者であるTrent McConaghyのブログ記事からも伺える。

ブロックチェーンコミュニティは、ブロックチェーンが数多くのトークンホルダーのインセンティブを調整する役割を担えることを理解している。例えば、トークンホルダーはskin in the game (リスクを保持している人)である。ブロック報酬あるいはトークンを利用することで、インセンティブデザインが可能であり、ブロックチェーンはインセンティブメカニズムであるといえる。

このことはとてつもない力を我々に与える。例えばブロック報酬は、ネットワーク参加者がどのように振舞うかを定義する機能がある。ただ、どの程度その意図が参加者に伝わるかにはいくつかのレベルがある。あなたは正しいインセンティブを設計を本当にわかっているだろうか?

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次の記事ではSteemitを題材に具体的にどのような点が問題で、どのようにしたら解決できるのかを確認していきます。
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