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Crypto Economicsの不都合な真実 - 行動経済学の知見から - (2/3)

前回の第1回ではイントロダクションということで、Crypto Economicsのデザインには行動経済学や社会科学の力が必要だという主張を見てきました。今回はSteemitなどを例に、具体的にどのような点でBitcoinと違い社会科学の力が必要になるのかを見ていきたいと思います。

原文
medium.com

第1回
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サトシからSteemitへ

さて、Bitcoinから拡張されたインセンティブデザインを分析していこう。

図1では、いくつかのインセンティブデザインを2軸で表現している。

図1
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*1

Automatibility

意図されたインセンティブ設計を実現するために、どの程度ステークホルダーによるManual Workが必要とされているかの指標。

Bitcoin
コンピュータが決定する。つまり、Bitcoinインセンティブ設計に従うために、Bitcoinのマイナーが意思決定する必要はなく、機械がただただマイニングするだけである。
SteemitやAuger
人間が決定する。つまり、報酬をもらうためには、意思決定をしたり、ブログを書いたりするなどのマニュアルワークが発生する。
Polkadot、PoSシステム (BitcoinとSteemitの中間)
人間にStakeするという行動を取ってもらう必要がある
訳者注) この点はBitcoinもマイニングマシンの投資をしているので同じに見えるが、マイニングマシンはあくまでもBitcoin外部の話であるのに対して、StakeはPoSシステム内部の話である点に違いがある

Size of Action Space

報酬を最大化するために、どれだけ多くの選択肢が用意されているかを示す指標。

Bitcoin (1)
マイニングとバリデーションを誠実にやるという1つの選択肢しか用意されていない。
Steemit、Numerai (∞)
選択肢は無数に用意されている。例えば、Steemitの場合どのような記事が良い記事かは人によるので、それこそ無数にある。同様にNumeraiに関しても、アルゴリズムの設計方法はいくつでも考えられうるので、無数の選択肢が存在している。

チャートからの分析

ブロックチェーンのインセンティブデザインには科学者だけでなく、公共政策の専門家も必要だ。

インセンティブデザインは、コンピュータの最適計算問題から、人間の行動(例えば、ブログへの投稿)にまで拡張されてきた。しかし、そこには問題がある。Crypto Economics界隈で広がった「インセンティブの力」に対する信頼は、「Bitcoin」の輝かしい実績に基づいていた点である。

チャートの左下にBitcoinが位置していることを真実だと仮定すると、Bitcoinが産み出したパラダイムは、いまやチャートの右上に位置しているシステムでも全く同じように動作するという信頼感を得るまでになってしまった。

Steemitのように右上に位置するプロジェクトは、Bitcoinと区別されることなく通常のブロックチェーンベースのCrypto Economicsシステムとして認識されている。しかし、その基礎となるCrypto Economicsモデルは現実世界での試練をくぐり抜けてはいない。

このことは実践的なインセンティブデザインに必要とされる複数のスキルが不足していることを示している。これらのスキルは当然メカニズムデザイン、暗号学、エンジニアリングなども含んでいるが、何より複雑で隠喩的、かつ非合理的に振舞う人間を理解するのに欠かせない行動経済学や人文科学のスキルも必要となる。つまり、ブロックチェーンのインセンティブデザインには「科学者」だけでなく、公共政策の専門家も必要なのだ。

特に難しい点は人間が合理的なアクターではない点だ。実際、人間は最適とは程遠い行動をしばしばとる。典型的な一例はUltimatum Game (最後通牒ゲーム)とよばれるものだ。

Aは100ドルを与えられ、Bに100ドルからいくらかを渡すことを依頼される。BはAのオファーを「受け入れる」か、「拒否する」かを選ばなければならない。もしBが拒否した場合は、AもBも1ドルも得ることができない。一方、もしBが受け入れた場合、BはAからオファーされた額を受け取り、Aはその残額を受け取ることができる。

ゲーム理論では、Bの最適な行動は常にAのオファーを受け入れることだと考えられる。しかし、現実にはAのオファーが30ドル未満の場合には、BはAのオファーを拒否することが多い。また、実験ではAも0.01ドルのようなオファーはせず、20から30ドルのオファーをする場合が多かった。

つまり実験では、A/B両者とも、ゲーム理論的にはとても最適とはいえない戦略を採用していたことになる。

Steemitのような複雑なCrypto Economicsシステムではこのような非合理な行動が同様に発生するだろう。しかし、Steemitなど多くのプロジェクトではこのような非合理性は無視されてしまっている。実際の人間の行動を反映したCrypto Economicsデザインの原則が無視されてしまっているのはなぜだろうか?

行動経済学の適用

行動経済学の観点からすると、上の図の2軸は以下のように解釈されうる。

  • インセンティブデザインにマニュアルワークが必要になればなるほど、デザインは難しくなり、人間の非合理性(確証バイアス、サンクコストの誤謬、集団浅慮など)を考慮する必要があるだろう
  • 行動の選択肢が増えれば増えるほど、最適解を見つけるのが難しくなり、正しい決断をすることが困難になる。コンピュータのマイニングであれば、答えの探索範囲は広いが、最適解を見つけ出すことはできる。人間の場合はそううまくはいかない。人間は選択を嫌がる傾向があり、選択肢が増えれば増えるほど、認知コストは高くなり、悪い結果に繋がりやすくなる。

「比較的安全ゾーン(表のピンク色部分)」外のシステムについては、どの選択肢がプレイヤーの利益を最大化するかを、プレイヤー自身が理解するのが難しいゾーンに位置しているといえる。設計者にとっては悪夢だ。ブロックチェーンのプレイヤーにすら選択が困難なのであれば、安定的で予見可能性の高いシステムを作る難易度は、選択肢の数に対して指数関数的に増大する。

現実世界でうまく動作するシステムをつくるためにメカニズムデザインを利用することは、個々のプレイヤーの選択肢が単純なものであったとしても、とても難しいことだ。「比較的安全ゾーン」の外に位置するような、最適な選択をすることが難しいシチュエーションの場合、メカニズムデザインの設計者がうまく設計することは非常に困難であろう。

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