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企業によるブロックチェーン活用の必要条件を考える - 航空業界の事例をもとに -

KLMに続きエアカナダが、スイスのブロックチェーンスタートアップである「Winding Tree」との提携を発表しました。
jp.cointelegraph.com


実際のビジネスシーンでブロックチェーンを利用する理由はまだまだ明確ではなく、話題作りという側面が否めない事例も数多くあります。しかし、今回の航空会社におけるブロックチェーン活用は、珍しくブロックチェーンの利点をうまく利用したものであり、今後のユースケースの一つになりえます (*)。


ただ、今回の事例を理解するためには、航空業界の力関係を知る必要があるため、まずは航空業界の現状について簡単にまとめ、Winding Tree及び提携先の航空会社が意図している戦略をまとめます。その後、本事例をふまえて、ブロックチェーンを企業が利用するにあたって、考慮すべきポイントを考えてみます。


(*) 本ブログは公開情報をベースに記載しているため、実態は役に立たないシステムということは十分にあり得ます。

航空業界における「GDS」の存在感

航空業界では伝統的に航空券のサプライヤーであるGDS (Global Distribution System)とよばれる業者が強いパワーを持ってきました。GDSは航空会社と旅行業者をシステムで接続し、旅行業者が航空券を発注にあたり、他の航空会社との比較、発注、発券機能を提供しています。

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例えば、ExpediaはアマデウスのGDSを利用している


しかし、GDSを利用して発券された航空券はGDS使用料が追加で請求されるため、航空会社からの直接発券に比べて割高であり、航空会社はできるだけGDSを利用しない方策を検討してきました。
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【NDC入門】第2回:航空券情報に「規格」導入、GDSとはどう違う? | 旅行業界 最新情報 トラベルビジョン


1つの施策として、2012年に航空会社の業界団体であるIATAが、新通信規格としてNDC (New Distribution Capability)を制定します。NDCは航空会社と旅行業者との接続形式を独自に定めたものです。従来のGDSは利用できる情報が限定的であり、航空会社の企業努力による各種サービスの差異などを旅行会社に訴求することが難しくなっていました。結果として、航空業界は価格競争に陥りがちになっていたのです。


GDSを利用せずにNDC規格の通信を旅行業者と直接行うことで、IATAは航空会社の利益確保を試みたのでした。航空会社側もNDCの利用には積極的であり、例えばNDCを利用する旅行業者に対してコミッションを支払ったり、逆にGDS利用に上乗せ利用料を課すなどしてきました。
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NDCの問題点

しかし、NDCには1点問題点がありました。上の図を見てもわかる通り、航空会社と旅行業者は1:1で接続する必要があるのです。


これまでGDSは複数の航空会社の情報を一つに束ねることで、複数航空会社の比較を簡単に実現する機能を旅行業者に提供してきました。しかし、NDCの場合は、航空会社と旅行業者で1:1の接続になるため、航空会社間の比較などが簡単にできないだけでなく、システム開発コストや複数会社に対応するためのオペレーションコストが旅行会社側で増大してしまうため、NDCの利用はなかなか進みませんでした。


このような状況で、複数の航空会社をNDC規格で束ねるアグリゲーターが登場してきます。やってる内容はGDSと同じなので、将来的にはこのアグリゲーターたちに利益が流れてしまうのは目に見えています。

Winding Treeのもたらす価値

Winding Treeは航空会社、旅行業者にGDSとしての情報集約機能を提供しつつ、分散型のプラットフォームを利用することで、従来GDSに流れがちだった利益を航空会社に留めることを意図しているわけです。
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Winding Treeは独自トークンであるLifを導入しており、ブロックチェーン内での売買にはLifを利用することが求められるようです。情報集約機能を導入するだけならPermissioned Chainの方が向いているのではと思いますが、属性の違う複数当事者が絡む場合には、Winding Treeが採用しているPublic Chainによるガバナンスは、ガバナンス策定でのオペレーショナルコストを削減できる点で有用と言えそうです。


例えば、Public Chainによるオンチェーンガバナンスを採用することで、プラットフォームを採用する企業間では純粋にLifの持ち分によって発言権が動的に変わるようになるため、メンバーの変更、追加などに柔軟に対応できます。Permissioned Chainを利用する場合は、チェーンのガバナンスを別途契約などで決める必要があるため、メンバー追加の柔軟性という意味ではPublic Chainに劣ります。

Winding Treeの事例から考えるブロックチェーンの応用可能性

先日アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が公開した資料の中に、Blockchainの必要性を決めるフローチャートが記載されていました。少しまとめると、以下のようになるかと思います。

  1. 複数のEntityが存在する
  2. 監査が必要(← TransactionでStateを更新していくという性質から、ブロックチェーンが有効)
  3. データコントローラーを決めることが難しい(← 異なる業界プレイヤーが関わる場合、データの管理者を決めるのが難しい場合も多い)
  4. 機微情報を取り扱わない(← 暗号化されていたとしても、GDPRなどの規制対応を考えると不十分な可能性が高い)

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確かにこのフローチャートはブロックチェーンの必要条件の一部を明示してくれていますが、これだけだと十分条件を満たしているとは言えなそうです。Weinding Treeの事例を考えてみると、追加で以下の条件も必要になってくるように思えます。

必須の条件
  • 現実世界の「モノ」が介在しない (またはモノの重要性が低い)


いわゆるOracleなどにより、現実世界の情報を取り込む仕組みの構築が進んでいます。しかし、人間のMisinputやIoT機器のバグなどによる誤入力を完全に防ぎきるのは不可能ですから、外部情報が必要以上に介在する仕組みをブロックチェーンで構築しようとすると、オペレーショナルコストがかかりすぎ、現実的でなくなってしまうといえるでしょう。


今回のWinding Treeの場合は、各航空会社が保有する航空券が外部情報(モノ)になりますが、既に電子化されているうえに、トランザクションが1回で完結する単純な構造であるため、ブロックチェーン向けの情報であるといえるでしょう。

あるとなおよい条件
  • UI/UXの重要度が低い


データレイヤーを分散化したとしても、UI/UXレベルが分散化されていない場合は、結局UI/UXの管理に関わる調整、オペレーショナルコストが必要となるためです。ただ、今回の航空業界での事例のように比較的単純な情報、かつ企業向けの情報であれば、接続方式のみ決定すればUI不要なレベルなので、サービス導入は一層容易になるかと思われます。